高層建築物がつくる都市のスカイラインについて -「図」と「地」の関係から-

建築物が群を形成すると、都市の形であるスカイラインが浮かび上がってくる。

スカイラインの形状は、とりわけ高層建築物の存在に依るところが大きい。

建築・都市計画史家のスピロ・コストフによると、もともと「スカイライン」という言葉は、「地上と空が出会う線」を意味してきたが、地平線に建つ建物により作られる「スカイライン」として使われ始めたのは1876年以降で、一般化したのは1890年代であるという。また、もう一つの用語「スカイスクレーパー(摩天楼)」が同時期に使われるようになったことは偶然ではないとも指摘している。

■都市の固有性・イデオロギーを象徴するスカイライン

高層建築物がつくる特徴的なスカイラインは、都市固有の風景を表わし、都市のアイデンティティや都市の繁栄を示している。

社会心理学者のアンセルム・シュトラウスが「映画の中でニューヨークという場所を認識させるには摩天楼の輪郭を数秒間だけスクリーンに映せばよい」と指摘するように、スカイラインは「都市の固有性」と密接に関係しているのである。

また、スカイラインは、その時々の政治体制やイデオロギーを反映し、視覚化したものでもある。

市街地の建物(「地」の建物)の高さは低く揃い、その中に教会の鐘楼やモスクのドームや尖塔、宮殿や天守閣等のランドマーク(「図」の建物)がアクセントとなることで、メリハリのあるスカイラインが形成され、それが権力や権威の所在を象徴していた。

いわば「図」(垂直性)と「地」(水平性)の関係が明確であるために、スカイラインとしての調和が図られていたわけである。

しかし、「地」を構成する一般の建造物の高層化により、従来「図」となっていたランドマークが埋没し、従来の「図」と「地」の均衡状態が崩れるようになっていく。

■調和したスカイラインは「抑圧の象徴」か?

かつての教会や宮殿を中心とした景観は、調和のとれたスカイラインを形成しているとの見方がある一方で、封建制や絶対王政時代の権威主義的な「抑圧の象徴」と否定的に解する向きもある。

後者の観点からすると、高層ビルが林立する現在の都市の姿は、景観や眺望を損なう元凶というよりは、民主化が定着した結果として肯定的に解釈できるだろう。

しかし、小泉構造改革の下で進められた日本の都市再生政策のように、国家主導の規制緩和に基づく大規模再開発は、地方分権の流れに逆行し、民意が十分に反映されていないとの指摘もある。

その点、日本と同様に高層化が著しいロンドンやミュンヘン等においては、都心部の高層化を巡って議会を巻き込んで議論がなされている。

高層化の是非はともかくとして、これらの都市では、民主的な手続きに則って高層化が進められている例と言えるだろう。

■西洋と日本の比較に見る「図」と「地」の関係

ここで、西洋と日本の比較から、図と地の関係を見てみる。

建築史家の鈴木博之は、西洋と日本の建築・都市の違いを、垂直性と水平性の違いから説明している。

鈴木は、あくまで五重塔や天守閣等は例外であり、結局日本においては高層建築による垂直性の文化は根付かなかったと述べる。

このことは、そもそも日本の市街地において、「図」と「地」の関係が明確に意識されていなかったことを意味する。

近代以前は、「図」となる建物は限られたものであったために、意図されたものではなかったにせよ、「図」と「地」の関係にはメリハリがあった。

しかし、近代以降の「地」の高層化により、均衡していた景観に変化が生じる。

これまで「図」であったものが、高層化した「地」の一部に紛れてしまうことにより、従来の「図」と「地」の関係が不明確になっていった。

日本において「図」と「地」の関係が不明確となっていった背景には、もともと「図」と「地」の関係が明確に意識されない水平性の文化であったことに加えて、徳川期の身分制に基づく高さ制限の存在が高層化に対する免疫を育てなかったために、なし崩し的に高層化が進んでしまったことがあると思われる。

いわば「図」と「地」の調和や「地」としての街並みの作法を会得する機会を持たずに近代を迎え、経済的な要請に従い高層化を進めてしまったといえるだろう。

■日本におけるスカイラインのあり方とは?

グランドデザインを描いた上での、「図」と「地」のメリハリのある戦略的な高層化が必要ではあるが、グランドデザインを描くという発想自体が垂直的な都市の独特の発想とも言える。

日本のような水平的な都市の発想は、部分の集合から全体を形成するという指向性が特徴であるのに対し、垂直都市は、全体を確定した上で部分の役割を配置するという発想だからである。

本来、日本における「図」は、建物ではなく山河であるとの見解もある。例えば、上田篤は、都市の中から聖所である山を眺める『山見の聖軸』を保全すべきと述べている。

また、齋藤潮も、「不変項としての土地の景観、いわば地景を都市内に持ち続け」て、「山河の眺めを都市内部において保持する」ためにこそ、建築規制が必要であると述べている。

つまり、山や川への眺めを基調に、建物の高さや高層化のあり方を考えていくことがこれからのスカイライン形成のヒントになるといえるだろう。

[参考文献]

KOSTOF,Spiro(1991),’The City Shaped’,Bulfinch

イーフー・トゥアン(1992)『トポフィリア: 人間と環境』せりか書房

鈴木博之(1999)『日本の近代10 都市へ』中央公論新社(※追記:2012年10月に文庫化[中公文庫])

上田篤(2003)『都市と日本人:「カミサマ」を旅する』岩波書店(岩波新書)

斉藤潮(2005)「形態を超えて ーシステムとしての都市デザインー」中村良夫編著『環境と空間文化 建築・都市デザインのモチベーション』学芸出版社

芦屋市景観地区においてマンション計画が不認定に -「高さ」ではなく「ボリューム」が問題に-

芦屋市は、大原町に建設予定の5階建てのマンションについて、景観法に基づく認定審査を行ったが、周辺の戸建て住宅地の景観と調和していないとして不認定の決定を下した。

景観地区の不認定は全国初とのことであるが、本稿では、芦屋市における景観地区の特徴を述べたうえで、今回の認定審査の論点について見ていく。

<2011年11月17日追記>

不認定後の動向については下記にまとめております。

○芦屋市景観地区における不認定問題のその後 -マンション計画の中止と山手幹線周辺における地区計画の策定ー

https://aosawa.wordpress.com/2011/11/17/

 

■芦屋景観地区の特徴

芦屋市では平成21年7月1日に市内全域を景観法に基づく景観地区に指定している。

2010(平成22)年2月1日現在、全国で28地区(18市区町)の景観地区が存在するが、市内全域を景観地区とした例は芦屋市のみである。

①景観地区の基準

景観地区の制限では、形態意匠、高さの最低限度・最高限度、壁面位置、敷地面積の最低限度を定めることができる。

芦屋景観地区は、このうち、景観地区の必須項目である「形態意匠」の制限のみを実施している。

芦屋市では、形態意匠の基準を、さらに「位置・規模」、「屋根・壁面」、「色彩」、「壁面設備・屋上設備」、「建築物に付属する施設」、「通り外観」と細分化し、それぞれ基準を定めている。

このうち色彩はマンセル値による定量的基準であるが、それ以外の項目は文言による定性的基準となっている。

抽象的な定性的基準は基準の適合・不適合の判断が難しいことから、定性的基準を補完するために、基準の解説書である景観形成ガイドラインを発行し、基準の解釈や写真による事例等を掲載している。

②認定手続き(認定審査会)

景観地区の形態意匠の制限は、認定制度により担保されるが、芦屋市では市長の認定に先立ち、建築、都市計画、法律等の専門家計5人から構成される景観認定審査会による審査を経ることとされている。

形態意匠の基準の大半は判断が難しい定性的な基準であるため、第三者機関である景観認定審査会を関与させることで、基準の適合判断に正当性をもたせる意図があると思われる。

■今回のマンション不認定の論点

①不認定マンションの計画概要

芦屋市が不認定としたマンションの予定地は、JR芦屋駅からほど近い大原町の戸建て住宅地の中にある。

当該物件は、敷地面積1,173㎡の東西に長い敷地に、5階建て、幅約40m、計23戸の集合住宅の計画である。

 

②周辺の規制内容

物件の周辺は、景観地区による形態意匠の規制のほか、都市計画による規制もかかっている。

用途地域により、第一種中高層住居専用地域、容積率200%、建蔽率60%の規制がかかり、さらに第2種高度地区が指定されているため、建物の高さが15mに制限されている。

つまり、都市計画による規制内容を見る限り、5階建て程度の中層マンションは充分に許容されることがわかる。

実際に、このマンションは、用途地域や高度地区等の都市計画法・建築基準法の基準は満たしていたようである。

しかし、5階建て、幅40mの建物は、戸建て住宅地のボリューム感と調和しておらず、景観地区の形態意匠制限に抵触しているとして、景観認定審査会が不認定との答申を出し、それを踏まえて市は不認定の決定を下した。

 

③不認定の理由は「高さ」ではなく「スケール・ボリューム」

不認定の根拠とされた基準は「周辺の景観と調和した建築スケールとし,通りや周辺との連続性を維持し,形成するような配置,規模及び形態とすること。」の部分である。

市によると、スケール、ボリューム感とは、単純に建物の高さを指すわけではなく、今回の場合は、建物の横幅を含めた建物の規模が大きすぎたことが問題視されたという。

5階建て、約15mは周辺の戸建て住宅地と比べると高いものの、既存の高度地区(15m)の基準は満たしているために、その観点からマンション計画の不備を責めることはできない。

しかし、高さ15mの壁面が幅40mも続くとなれば、周囲に与える圧迫感や威圧感も大きいものになるだろう。

基準に書かれた「調和した建築スケール」が具体的に何を指すのか明確に示されていないが、景観地区の基準を解説した景観形成ガイドラインによると、「分棟、分節、雁行等によりボリューム感を軽減し、周辺景観と調和した建築スケールとする」とある。

つまり、長大な壁面による圧迫感やボリューム感を減らすために、市は建物の分棟や分節の工夫を要求しているわけであるが、当該物件はこうした工夫が足りなかったと判断されたようである。

前述のように、今回の論点は高さそのものではなく、建物の幅を含めたボリュームであることから、仮に事業者が5階建を4階建に下げたとしても、壁面の分節や分棟等の工夫がなされなければ、マンション計画を認定することはないと市は述べている。

しかし、高さ自体は問題ではなかったとはいえ、当該エリアでは高さ12m、壁面後退2mの地区計画の策定が検討中であるという。

やはり、戸建て住宅地に15mの高さ制限(高度地区)は緩すぎるとの認識が市や周辺住民にあったと思われる。

 

■今回のマンション不認定から見える今後の景観・都市計画行政のあり方

「高さ」ではなく「ボリューム」という観点から攻めていった芦屋市のスタンスは、今後の景観・都市計画行政の方向性に対する重要な示唆を与えていると思われる。

現行の建築基準法、都市計画法、景観法で強制力のある高さ制限を行うためには、景観地区、高度地区、地区計画等の制度があり、これらは「建築確認」により担保される。

建築確認は、自治体の恣意的な判断や裁量の余地を排除することに眼目があるため、明示的な数値基準(地上20m、30mなど)を設定し、その基準への適合・不適合を判断するしかない。

しかし、良好な景観や街並みをつくるためには、高さ、形態意匠、壁面の位置、空地の取り方など、様々な要素を総合的に判断する必要があり、どうしても裁量的な判断が求められる。

したがって、高さや壁面位置等は「建築確認」、形態意匠は裁量的判断を許容する「認定」としている現行制度は、どこかいびつである感は否めない。

市は、あくまで「高さ」ではなく「ボリューム感」が問題であったと述べているが、高さはボリュームを構成する一要素でもあることから、高さとボリュームを明確に分けることは難しい。

あくまでも推測であるが、現行の認定制度の枠組みでは「高さではない」と言わざるを得なかったにせよ、市の本音としては、ボリュームの中に高さも含めて認定の対象としたいのではないか。

仮にそうならば、高さも含む建物のボリュームを「形態意匠」と捉えた芦屋市の考え方は、高さや形態意匠等の諸要素を総合的に判断する制度への再編を考えるきっかけとなるかもしれない。

現在、国は都市計画法の抜本改正を検討しているが、その議論の中には、集団規定の許可制導入(建築確認から裁量的判断による許可制へ)も含まれていると言われる。

今後、裁量的判断を可能とする景観・都市計画行政を実現していくためにも、芦屋市をはじめとする全国における認定審査の積み重ねに期待したい。

 

■ボリューム感を軽減する壁面規制の事例

最後に、高さ制限以外の方法で、ボリューム・スケール感を軽減する壁面規制の事例を紹介する。

高さを抑えると、建物は横に拡がり、長大な壁になってしまう一方で、建物が長大な壁にならないようにすると、建物の高さが高くなるといったジレンマがある。

指定容積率を下げればこうした問題は解決するかもしれないが、容積率を変えることは容易ではない。

そこで、芦屋市のように壁面の分節や分棟をガイドライン等で示す例が見られるが、定量的な基準として壁面の制限を行っている自治体も少なからず存在する。

①見付け面積の制限(西宮市景観計画)

西宮市では、全域的に絶対高さ型高度地区を指定しているが、近年、屏風型の板状マンションが増加し、長大な壁面が圧迫感をもたらすとして問題となっていた(写真参照)。

そこで、市は景観計画の中に見付け面積(最大投影面積)の制限を盛り込み、低層住居専用地域や市街化調整区域は1500㎡、その他の住居系用途地域や工業系地域は2,500㎡に制限している。

 DSC_0009

②建物間口の制限(熱海市景観地区)

熱海市は、東海岸町において景観地区を指定している。

当該地区は海と山に挟まれたエリアであり、壁のような建物が建ってしまうと、山から海を見下ろす眺望景観が阻害されてしまうために、建物の間口の規制をしている。

具体的には、高さ25m以上の部分の建物の幅を、敷地間口の1/3以下に制限している。

 

③建物の壁面長さの制限(川崎市高度地区の緩和基準)

川崎市は、住居系及び工業系用途地域を対象に絶対高さ型高度地区を指定し、高さを制限している。

ただし、特例許可により、総合設計制度を活用した建築物は高さを超過することが可能となっており、その許可の基準の一つとして、建物の壁面の長さを70m以下としている。

[関連記事]

○芦屋市景観地区における不認定問題のその後 -マンション計画の中止と山手幹線周辺における地区計画の策定ー

https://aosawa.wordpress.com/2011/11/17/

[参考資料]

○芦屋景観地区、芦屋景観地区景観形成ガイドラインの内容

http://www.city.ashiya.lg.jp/toshikeikaku//keikan/minamiasiya/index.html

○芦屋市景観認定審査会

http://www.city.ashiya.lg.jp/toshikeikaku/fuzokukikan/toshikeikaku5.html

○西宮市景観計画

http://www.nishi.or.jp/contents/00009623000200040.html

○熱海市景観地区

http://www.city.atami.shizuoka.jp/icity/browser?ActionCode=content&ContentID=1197851212417&SiteID=0&ParentGenre=1000000000127

○川崎市高度地区の特例許可(川崎都市計画高度地区ただし書第2項第4号の規定に基づく許可基準)

http://www.city.kawasaki.jp/outline/info1482/file7601.pdf

歴史的建造物としての東京タワー

■都心のスカイラインに埋没する東京タワー

東京タワーは、首都圏のテレビ局の集約電波塔として1958(昭和33)年に完成した。

東京タワーの高さは、エッフェル塔の高さを上回る333mであるが、この数値はパリのエッフェル塔を超える世界一の高さを目指して決められたとの話もあるが、実際は技術的観点から決定したという。

2010(平成22)年現在、東京タワーは都内で最も高い建造物であるが、近年の都心部における大規模ビルの林立により、その存在は目立たなくなりつつある。

1968(昭和43)年に出版されたケヴィン・リンチの『都市のイメージ』の巻末に、訳者の富田玲子の解説が掲載されている。

そこには、低層の家並みに東京タワーが屹立する写真が示され、「まわり中に36階建のビルディングが並んだら、ランドマークでなくなるだろう」との文章が添えられている。

この「36階建」とは、100mを超える日本初の高層ビルで、日本語版「都市のイメージ」が出版された年に竣工した「霞が関ビル」と同じ階数である。

当時、100mを超える建造物は、東京タワーと霞が関ビルのみであったことから、東京タワーはどこからも見えるランドマークとして機能していた。

そして40年後の現在、東京タワーは超高層ビルが林立する都心のスカイラインの中に埋没しており、富田の予想が現実のものとなりつつある(東京都建築統計年報によると、2007年時点での東京都区部における100m超の建築物は計315棟)。

cropped-dsc_0065.jpg写真 隅田川からみた東京タワー

■文化財化する東京タワー

現在、墨田区押上に高さ634mの東京スカイツリーが建設中であり、2012(平成24)年には開業が予定されている。

本家東京タワーが、視覚的ランドマークとしての役割ばかりでなく、本来の電波塔としての役割も終えようとしている[※ただし、スカイツリーのバックアップとしての役割が残るほか、一部FM放送は引き続き東京タワーから送信されるという。2012年5月28日追記]

一方、近年、小説や映画などでは、昭和の象徴として東京タワーが取り上げられ、懐かしさや郷愁をもたらす存在になりつつあるように見受けられる。

また、東京タワーは、2008(平成20)年に50周年を迎え、文化財保護法に基づく登録有形文化財の登録も可能となった※。

つまり、東京タワーは、「先進性の象徴」から「歴史的な建造物」へと移行する過渡期にあるといえるだろう。

※文部科学省が告示した登録有形文化財登録基準には、建築物、土木構造物及びその他の工作物のうち、原則として建設後50年を経過し、かつ、(1)国土の歴史的景観に寄与しているもの(2) 造形の規範となっているもの(3) 再現することが容易でないもの、のいずれかに該当することとされている。

なお、1954(昭和29)年完成の名古屋テレビ塔は、2005(平成17)年に登録有形文化財に指定されている。

また、2012年12月14日、文化審議会が東京タワーを登録文化財にするよう答申を行った[2013年3月28日追記]。

<参考>景観施策と東京タワー

東京タワーが位置する港区は、2009年に景観法に基づく景観計画を策定しており、その中には、東京タワーをランドマークとして際立たせるための方針や基準も定めている。

また、景観法では、地域の景観資源となる建造物を保全するための制度として景観重要建造物制度がある。港区景観計画には、景観重要建造物はまだ指定されていないようであるが、今後東京タワーが景観重要建造物として位置づけられることもあるかもしれない。

○港区景観計画

http://www.city.minato.tokyo.jp/joho/keikaku/mati/keikankeikaku/index.html

[関連記事]

○幻のタワー計画 ―高さ550mの正力タワーと高さ600mのNHKタワー―

https://aosawa.wordpress.com/2011/01/11/

○高層建築物に対する拒絶反応と慣れについて ―パリ・エッフェル塔を例に―

https://aosawa.wordpress.com/2010/01/12/

[参考文献]

○INAXギャラリー企画委員会タワー(2006)『内藤多仲と三塔物語』 INAX 出版(INAX BOOKLET)

○ケヴィン・リンチ(2007)『新装版 都市のイメージ』岩波書店

 

行政界を越えた広域的な景観調整の事例 ~木曽川景観協議会(岐阜県各務原市と愛知県犬山市)~

愛知県と岐阜県の県境を流れる木曽川沿いにおいて行政界を跨ぐガイドラインである木曽川景観基本計画が策定されている。

このガイドラインは、史跡名勝天然記念物である木曽川周辺の景観を保全することを目的としたものであり、これを元に愛知県犬山市と岐阜県各務原市の両市が、景観法に基づく景観計画を策定した。

以下では、行政界を越えて広域的な景観調整の事例として、木曽川における取り組みについて紹介する。

 

■木曽川沿いにおける高層マンションの建設

事の発端は木曽川沿いの高層マンションの建設である。

2003(平成15)年頃、木曽川に面した各務原市側の敷地において、14階建て、約40mのマンションの計画が持ち上がった。

このマンションが木曽川に直接面することに加えて、国宝犬山城の対岸に位置するため、犬山城と木曽川がつくる一体的な歴史的・自然的景観を損なうことが懸念された。

そこで、犬山・各務原の両市長が名勝木曽川の景観を保全に取組むべきとの見解で一致し、共通のガイドラインをつくることが決定する。

写真1 木曽川の眺め

写真1 木曽川の眺め(左:問題となったマンション、右:犬山城)

写真2 犬山城から木曽川を望む

写真2 犬山城から木曽川を望む

■「木曽川景観基本計画」の作成

2004(平成16)年に各務原市と犬山市により木曽川景観協議会が設立される(※当時は任意の協議会であったが、2009(平成21)年5月に景観法に基づく景観協議会に移行)。

木曽川景観協議会と木曽川景観基本計画策定委員会がガイドラインの検討を行い、2006(平成18)年に「木曽川景観基本計画」として策定された。

基本計画には、建築物の配置、高さ、形態意匠、色彩、素材、緑化、付属建築物・施設、照明に関する基準が景観指針として定められた。

指針は、基本的に文言による定性的な内容ではあるが、高さについては定量的な数値基準(10m、13m、20m、31m)が設定されている。

数値基準のうち、犬山城周辺とその対岸に指定されている20mは、従来運用されていた基準をもとにしている。

木曽川は、1931(昭和6)年5月11日に文化財保護法に基づく史跡名勝天然記念物に指定されているが、その際、川に面する一筆については高さを20mに制限するガイドライン(名勝木曽川保存管理取扱い基準)がつくられた。

この基準の根拠に関する資料は確認できていないが、おそらく旧建築基準法(1950年以前は市街地建築物法)の住居地域における高さ制限値20mをもとにしていると思われる。

余談ではあるが、木曽川が史跡名勝天然記念物に指定された1931(昭和6)年当時、高さ制限はメートル法ではなく尺貫法であり、住居地域の高さ制限は65尺(約19.6m)であった。

全くの偶然ではあるが、ちょうど史跡名勝天然記念物の指定があった年の12月に市街地建築物法施行令が改正され、高さ制限値がメートル法に変わり、住居地域の65尺が20mに、住居地域以外の100尺が31mとなった。

一方、商業地域に指定されている31mは、犬山城の石垣の高さを超えないものとして、旧建築基準法の絶対高さ制限値31m(100尺)をもとに決められた。

 

■「基本計画」から景観法に基づく「景観計画」へ

木曽川景観基本計画はあくまで自主的な計画であり、法的な拘束力はない。

そこで、両市は基本計画を踏まえて、法に基づく景観計画を策定しており、各務原市景観計画は2006(平成18)年10月施行、犬山市景観計画は2008(平成20)年4月に施行されている。

①各務原市景観計画における高さ制限

各務原市は、木曽川周辺だけではなく全市的に高さ制限をかけている点が特徴である(ただし、自衛隊基地や商業系用途地域は除外)。

風景特性や用途地域に応じて、10m、13m、20m、25m、45mの5種類の高さ制限値が設定されている。

施行から2年後の2008(平成20)年8月に景観計画を改定し、木曽川河畔地区を「重点風景地区」に指定し、より厳しい規制を実施している。

②犬山市景観計画における高さ制限

犬山市景観計画では、市域を犬山城周辺地域、市街地地域、東部丘陵・里山地域の3つの地域に分けているが、高さ制限値が設定されたのは、犬山城周辺地域のみである。

犬山城周辺地域は、さらに3つに区分され、「城下町ゾーン」は13m、「木曽川河畔ゾーン」は20m、「駅西商業ゾーン」は31mに制限されている。

景観計画施行後、犬山市は2009(平成21)年1月に歴史まちづくり法に基づく「歴史的風致維持向上計画」を策定し、景観計画の犬山城周辺地域を重点区域に指定している。

さらに、景観計画で高さ13mに指定されている「城下町ゾーン」については、都市計画法に基づく高度地区に指定することが位置づけられており、より実効性の高い規制が行われる予定である。

表 各務原市景観計画・犬山市景観計画における高さ制限値一覧

高さ制限値一覧(各務原・犬山)