住民投票で高さ15mの高度地区を決定 -八ヶ岳の眺望を守るために茅野市塚原地区で導入-

茅野市塚原地区(塚原一丁目、二丁目の一部)で、八ヶ岳への眺めと良好な住環境を保全するために、建築物の高さを15mに規制する高度地区が導入されることになった(2010(平成22)年3月中に告示予定)。

また、茅野市では景観法に基づく景観計画により、市全域に高さ制限をかける予定である(2010(平成22)年4月1日施行予定)。

以下では、高度地区指定の経緯とともに、現在検討中の景観計画の高さ制限との関係を整理した上で、茅野市高度地区の特徴を述べる。

■11階建マンション計画を契機に、地元が高度地区指定を要望

2008(平成20)年4月に、塚原区の国道152号線北側の敷地(工業地域、容積率200%)で、11階建て、約33mのマンション計画が明らかとなった。

塚原地区は基本的には低層住宅地であるため、今後同様の高層マンションが地区内に建設されると、八ヶ岳への眺望景観が阻害されてしまうと考えた地元は、平成20年8月29日に、高度地区による高さ制限を求める要望書を市に提出した。

当初、地元は塚原地区全体を対象と考えていたが、商業地域は高度利用を図るエリアであること等の理由から、市は塚原地区全域での指定は困難と回答し、まずは住居系用途地域のみを対象に検討を進めることになった。

 

■住民投票で高度地区の是非を決定

市は、高度地区導入に際して、高さ制限の実施が地区の総意であることを地元に求めた。

そこで、2008(平成20)年12月、地元は、高度地区指定の是非を確認するために、地区住民や地権者を対象とした住民投票を実施した。

この住民投票は、市が実施したわけではなく、あくまで塚原地区が自主的に行ったものである。

住民投票の内容は、塚原区の住居系用途地域を対象に15mの高度地区をかけることについて賛否を問うものであり、地権者の約90%が投票し、投票者の90%が高度地区の導入に賛成している。

この結果を受けて、翌平成21年2月に、市に対して高度地区指定の要望書を再度提出し、高度地区の指定手続きが進められることとなった。

 

 

■茅野市高度地区の内容

この高度地区の内容は、塚原地区の住居系用途地域約20haを対象に、一律15mの高さ制限をかけるものである(第一種中高層住居専用地域、第一種住居地域。ともに容積率200%)

 

①景観計画より厳しい制限値

現在、茅野市では景観法に基づく景観計画が策定中であり、「八ヶ岳の眺望と調和した ふるさと茅野のまちづくり」を目指して、市全域に高さ制限をかける予定である(2010年4月1日施行予定)。

計画案によると、住居系地域、工業系地域、近隣商業地域は20m、商業地域は31m、用途地域外は13mに制限されることになる(表1参照)。

塚原地区は、住居系地域に該当するため、20mに制限されることになる。

しかし、地元からは20mより厳しく制限したいとの意向が出され、また、景観計画は強制力の面での不安もあることから、塚原地区では都市計画法に基づく高度地区を活用することになった。

茅野市景観計画

なお、茅野市は、景観計画の策定にあたって、市民、別荘所有者、事業者に対するアンケート調査を実施している。

この結果によると、約2割が積極的に規制すべき、ある程度規制すべきを含めると9割が高さ制限を実施すべきと回答している(茅野市景観計画案にアンケート結果が掲載されている)。

②「15m」の根拠

15mの設定に際しては、県内で高度地区を導入している諏訪市、松本市の数値が参考にされた。

諏訪市では諏訪湖畔、高島城周辺に一律15mの制限がかかっており、松本市では松本城周辺に15、16、18、20m(住居系用途地域は15m)がかけられている。

また、風致地区の上限値として用いることができる数値が15mであることも参考にされた。

風致政令(風致地区内における建築等の規制に係る条例の制定に関する基準を定める政令)によると、風致地区で用いる高さ制限値は8mから15mまでと定められている(政令の第4条第1項第1号イ)

ちなみに風致政令の15mの根拠は高木の高さであり、8mは2階建ての住宅の高さである。

茅野市高度地区経緯

■茅野市高度地区の特徴

①住民投票の実施

茅野市高度地区の大きな特徴は、住民投票を実施したことだろう。

高度地区の指定にあたって、アンケート、説明会、ワークショップ等により住民の意見を反映させる例は多いが、住民投票を行ったケースはないと思われる。

現行の都市計画決定の手続きにおいて、住民が関与できる機会は、公聴会や公告・縦覧時の意見書提出等に限定される。

現行手続きを補完する意味でも、住民投票は住民意向の反映する手段の一つとして参考になるのではないか。

ちなみに、高さ制限を巡る住民投票の例としては、ドイツのミュンヘンの事例がよく知られている(注1)。

2004年、ミュンヘン市のランドマークであるフラウエン教会の高さ99mを超える高層建築物の是非を巡って市民投票が実施された。

市民投票の結果、わずかではあるが賛成が50.8%と過半数を上回り、教会の高さを超過する高層建築物の禁止が決まった。

ただし、この市民投票には問題もあり、投票率が21%と低く、市民投票に賛成した人は全有権者の11%に過ぎないため、民意が十分に反映されていないといった点が指摘されている。

②景観計画の上乗せ規制としての高度地区

高度地区による高さ制限が、現在策定中の景観計画の高さ制限値より厳しい上乗せ規制となっている点も特徴である。

景観計画では、土地利用の類型に応じて一律的な高さ制限値を設定しており、いわば最低限守るべき一般規制といえる。

しかし、塚原地区では、地区の特性から景観計画の規制20mより低くすべきと判断し、15mの高度地区を指定したわけである。

広域的・一律的な規制は緩やかな景観計画で実施し、局地的できめ細やかな規制は高度地区や地区計画で実施するといった制度の使い分けは今後も他自治体で増えていくと思われる。

このように、景観計画を全域的に指定し、よりきめ細やかな規制を高度地区で行っている例として、松本市、鹿児島市がある。

松本市では景観計画により用途地域に応じた高さ制限を実施しているが、松本城周辺においては、より詳細な高さ制限を高度地区で行っている(高度地区指定は2001年、景観計画策定は2008年)。

鹿児島市は景観計画で、桜島への眺望と城山への眺望を保全するために中心市街地において高さ規制がかけられているが、城山周辺の一部地区については、景観計画より厳しい数値の高度地区が指定されている(高度地区指定は1991年、景観計画策定は2007年)。

(注1)ミュンヘンの事例については、下記文献に詳しい。

卯月盛夫(2005)「グローバル・リポート ミュンヘンにおける都市景観論争-高さ100m超の高層建築規制求める市民投票が可決」『日経グローカル(21)』日経産業消費研究所

南部繁樹(2005)「海外だより高層ビル建設で市民投票–ミュンヘン市で99m超の高層建築物禁止」『再開発コーディネーター(114)』再開発コーディネーター協会

[参考資料]

○茅野市高度地区計画案

http://www.city.chino.lg.jp/ctg/05030303/05030303.html

○茅野市景観計画案

http://www.city.chino.lg.jp/ctg/05030262/05030262.html

○長野日報記事

2009年2月7日「茅野市塚原区の建物の高さ規制 賛成9割」

2009年11月3日「茅野市塚原区の一部を高度地区指定へ 15メートルに規制」