00年代の「絶対高さ制限」を振り返る(その1) ―絶対高さ型高度地区増加の背景―

00年代は高度地区による絶対高さ制限が急増した10年間であった。

2008(平成20)年3月末時点における絶対高さ型高度地区指定数は120都市であるが、このうち00年代に導入した都市は45都市(37.5%)に及ぶ。

そこで、00年代に絶対高さ型高度地区が急増した背景やその特徴を2回に分けて見ていく。

■「00年代以前」の絶対高さ型高度地区の特徴

00年代の特徴を明らかにする前提として、まずは「00年代以前」における絶対高さ型高度地区の特徴を見てみる。

①法改正に伴う用途地域の見直しに併せた指定(用途地域の補完)

00年代以前における絶対高さ型高度地区の指定は、70年代前半、90年代半ばに集中している。

いずれも法改正に伴う用途地域の見直しに連動して絶対高さ型高度地区を指定した都市が多い。

70年代に指定した都市は、京都府内、奈良県内の自治体を中心に、横浜市、川崎市、大津市などがある。

これらの都市は、1970年改正建築基準法による容積制の全面適用に伴って廃止された用途地域における高さ制限(住居地域:20m、住居地域以外:31m)の高さ制限を継承するために絶対高さ型高度地区を指定している。

それゆえ住居系だけでなく、商業系用途地域にも指定した都市が多い点が特徴となっている。

一方、90年代は、1992年改正都市計画法・建築基準法により、用途地域の細分化(8種類→12種類)に伴う用途見直しに併せて高度地区を指定したものであり、住居系のみの指定が大半である。

90年代指定の典型的な例を見ると、中高層住居専用地域に10m~20m程度の絶対高さ型高度地区をかけるものが多い。

中高層住居専用地域に指定されているが、実質的には低層の住宅が多く立地した「低中層住宅地」であるために、絶対高さ制限をかけることで住環境の保全を図っているわけである。

②特定の都道府県内の市町村における指定

さきほど用途地域の見直しと連動した指定が多いと説明したが、用途地域の見直しにあたっては、都道府県が指針や方針を定めており、その中で高度地区の指定の考え方も記述している例が少なくない。

そのため、00年代以前の絶対高さ型高度地区は、特定の都道府県内にのみ指定される傾向が見られる。

例えば、70年代前半は京都府、奈良県内、90年代半ばは静岡県内、愛知県内、兵庫県内、福岡県内の自治体で導入されているが、00年代以前に東北、北陸、中国、四国地方で絶対高さ型高度地区を導入した都市はほとんどない。

■「00年代」における絶対高さ型高度地区指定の背景

 次に、00年代の絶対高さ型高度地区の増加の背景を整理してみる。

①各種規制緩和を背景とする建築紛争

 バブル崩壊後の景気対策の一環として展開された住宅建設に対する規制緩和施策が建築紛争の増加を招くことになる。

 例えば、1997(平成9)年の建築基準法改正では、共同住宅における共用部分の容積率不算入などの各種緩和措置が実施され、高層マンションがつくりやすい条件が整った。

 1998(平成10)年に建設された全共同住宅のうち15階建のマンションが占める割合は2.5%であったが、10年後の2008(平成20)年には10.4%まで増加している(住宅・土地統計調査)。

 高層マンションの建設は、住宅地だけでなく地価の下落が進んだ地方の中心部などにおいても活発になっていき、住宅地の良好な居住環境や歴史的街並みの悪化を懸念する周辺住民から反対の声が上がり、高度地区による高さ制限を実施する自治体が増えていくことになる。

②地方分権化に伴う都市計画法改正(市町村の権限強化)

 1999(平成11)年7月16日の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」の制定に伴って都市計画法が改正され、都市計画決定における市町村の権限が強化された。

 従来、市町村の都市計画決定にあたっては都道府県の都市計画地方審議会の議を経ることが必要であったが、法改正によって市町村は独自の都市計画審議会を設置できるようになり、市町村の都市計画審議会の議を経ることとされた(都市計画法第19条)。

 さらに、これまで都市計画決定に際しては、都道府県知事の承認が必要とされていたが、都道府県知事との協議、同意へと変更になった。

 もともと高度地区は市町村決定事項ではあったが、この法改正により都道府県の関与が弱められたことが、市町村による高度地区指定を増やす要因となったわけである。

③国土交通省「都市計画運用指針」策定による高度地区指定が望ましい区域の追加:景観保全・形成のための高度地区

 2000(平成12)年に、国土交通省が都市計画運用指針を示し、高度地区の指定が望ましい地区として新たな地区を追加している(表1)。

 従来の通達(1957年建設省通達「高度地区の指定について」)によると、高さの最高限度を定める区域として、1)商業地域内の交通その他の都市機能が低下するおそれのある区域と、2)良好な居住環境を保全する必要のある区域の2つが挙げられていた。

 つまり、最高限度高度地区の目的として、「商業地域における都市施設への負荷のコントロール」と「住宅地における居住環境の保全」を想定していたことがわかる。

 しかし、2000年に新たに策定された運用指針では、この2つに、『3)歴史的建造物周辺やシンボル的な道路の沿道において景観、眺望を保全するために高さを揃える必要がある区域』が追加された。

 もちろん、運用指針策定以前にも、歴史的・自然的景観保全や都市景観の形成を目的とした高度地区の活用事例は見られたが、運用指針に明文化されたことで、景観保全・形成を目的とした指定を後押しすることになったと言えるだろう。

表1 高度地区指定に関する従来の通達と都市計画運用指針の比較

建設省通達「高度地区の指定について」

国土交通省「都市計画運用指針」

昭和32年12月6日

平成12年

第三 建築物の高さの最高限度を定める高度地区一 建築物の高さの最高限度を定める高度地区(以下「最高限高度地区」という。)は、建築密度が過大となるおそれのある市街地の区域で、おおむね次の各号の一に該当するものについて指定する、 6.高度地区(1)趣旨高度地区は、都市の合理的土地利用計画に基づき、将来の適正な人口密度、交通量その他都市機能に適応した土地の高度利用及び居住環境の整備を図ることを目的として定める地域地区である。このうち、建築物の高さの最低限度を定める高度地区(以下「最低限高度地区」という。)については、市街地中央部の商業用地や駅前広場周辺等の、特に土地の高度利用を図る必要がある地区について指定するのが望ましい。また、建築物の高さの最高限度を定める高度地区(以下「最高限高度地区」という。)については、
イ 商業地域内の交通その他の都市機能が低下するおそれのある区域 a 建築密度が過大になるおそれのある市街地で、商業地域内の交通その他の都市機能が低下するおそれのある区域
ロ 住居地域内の適正な人口密度及び良好な居住環境を保全する必要のある区域 b 建築密度が過大になるおそれのある市街地で、住居地域内の適正な人口密度及び良好な居住環境を保全する必要のある区域
c 歴史的建造物の周囲、都市のシンボルとなる道路沿い等で景観、眺望に配慮し、建築物の高さを揃える必要がある区域
等の地区について指定するのが望ましい。

 

④景観や住環境に対する住民の意識の向上

 その他にも、建築紛争の増加や景観法の制定(2004年)などをきっかけとして、地域の景観や住環境の保全に対する住民の意識が高まったことも背景としてあると考えられる。

 以上のような背景をもとに絶対高さ型高度地区が増えていったと考えられるわけだが、00年代の高度地区の具体的な特徴については次回紹介する。

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