御堂筋「摩天楼」計画(毎日新聞)

※毎日新聞2013年07月19日大阪朝刊の「論ステーション」に掲載されたインタビューを以下に再掲します。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

毎日新聞2013年07月19日大阪朝刊<オピニオン opinion>

大阪の「顔」とも言われる御堂筋沿いのビルの高さ規制を大幅に緩和する手続きが進められている。老朽化したビルの建て替えを促し、街の活性化を図る狙いだが、風格のある景観が乱れ、魅力が薄らぐと心配する声も強い。都市景観の研究者と、地元で街づくりの提言を続けてきたNPO代表に話を聞いた。

◇比類なき美、100年の計で−−東京工業大助教・大澤昭彦さん(景観・都市計画)

御堂筋の景観は70年以上かけて築き上げられてきた。1937年の道路完成以来、幅44メートルの道路に4列のイチョウ並木、沿道に建ち並ぶ100尺(31メートル)のビル群が、風格ある御堂筋の基調となる景観を成してきた。95年に31メートルの高さ規制が緩和されたものの超高層ビルは御堂筋にふさわしくないとして50メートルに落ち着いた。高度成長期やバブル期にもあえて超高層化を認めなかったのは、道幅と高さのバランスが取れた景観に固有の価値があるとの考えからだ。御堂筋の景観は大阪市と民間の不断の努力によって築かれてきた公共財であり、大阪の歴史的、文化的な厚みを象徴する存在だ。

それが今、超高層化へかじを切ろうとしている。しかし、この緩和路線は、御堂筋が培ってきた歴史的、文化的蓄積を放棄し、大阪の「顔」を失うことにつながるのではないかと強く懸念している。現在の大阪の経済力から見ると、超高層に建て替わるのは、経済的条件の整った数棟にとどまり、結果的に分断されたスカイライン(空に接する輪郭)だけが残ることになりかねない。そうなれば、どこにでもある奥行きも深みもない都心の一つに成り下がってしまう。

現在のスカイラインは50メートルにそろっていないから景観保全の体をなしていないという意見もあるが、これは95年の規制変更のためで、31メートルと50メートルのラインが混在しているのはむしろ当然だ。街づくりは50年、100年かけて行うものであり、20年足らずでそろうのは無理な話だ。御堂筋は道路の幅員と壁面後退の幅を足すと52メートル。沿道の建物の高さを50メートルに整えると、道幅と高さのバランスが取れて美しい。年月をかけて50メートルのラインをつくることに意味がある。

比較的広い道路で、高さに制限を加えた沿道建物が一体となった街路景観といえば、東京の表参道や銀座がある。御堂筋はこうした通りと比べても風格があり、全国的に見ても非常に価値のある街路景観と言えるだろう。

世界一の観光客数を誇るパリの美しい街並みは19世紀の大改造でその骨格が完成した。1960年代の規制緩和により、一部区域で超高層を認めた結果、73年に210メートルのモンパルナスタワーが完成した。これが街の景観を損なったと市民の反発を招き、一転して高さ規制が強化され、市内の再開発は最大37メートルに制限された。近年、再び規制緩和されたが、あくまで中心部の景観への影響が少ない市外周部の一部に限定している。

大阪では大阪駅や天王寺周辺で超高層ビル開発が活発だ。このため、相対的に御堂筋の価値が下がっているように見えるのかもしれない。だが、御堂筋は御堂筋らしさを強調することが他地区との差別化につながる。オフィス需要が限られる中、高層化を図る場所と高さを抑える場所のメリハリを持たせる方が、大阪全体の持続的な発展に寄与するだろう。

フランスの作家、ビクトル・ユゴーはこんな言葉を残している。「一つの建物には二つの要件がある。建物の効用と、建物の美しさである。効用は建物の所有者に帰属するが、建物の美しさはすべての人に帰属する」。先人が築き上げてきた歴史をいかに継承するかという方向で議論が進むことを期待したい。【聞き手 論説委員・藤田悟】

==============

◆御堂筋沿道の高さ規制

御堂筋(大阪市北区−中央区、約4キロ)は1937(昭和12)年、幅44メートルへの拡張工事が完成し、ほぼ現在の姿になった。沿道の建物の高さは法律で100尺(31メートル)に規制され、69年の法改正で高さ規制が撤廃されて容積制に変わった後も、大阪市は淀屋橋−本町間について景観保全を目的に行政指導で31メートル規制を続けた。95年には歩道に面した部分は高さ50メートルに、上層部分を歩道から10メートル以上後退させた場合は高さ60メートルまで緩和した。街の活性化を掲げる橋下徹市長が検討を指示したのを受け、市都市計画審議会の専門部会は今年3月、60メートル規制を撤廃し、上層部分の後退幅に応じて最高140メートルまで可能となる規制緩和の最終案をまとめた。2013年度中に市要綱や条例の改正手続きに入る。

<関連ページ>

○御堂筋沿道 高さ制限緩和への疑義

https://aosawa.wordpress.com/2013/03/25/

○御堂筋における高さ制限の変遷(季刊土地総合研究2012年春号)

http://www.lij.jp/html/jli/jli_2012/2012spring_p030.pdf